至高の探求

伝統と進化

1)使い手に合わせたペンポイント研磨、調整を考慮したカスタムメイドシステム

 人は箸を握るときと同じようにペンを握るときも無意識で、人それぞれの癖があります。また、人はそれぞれ千差万別個性のある字を書きますが、それと同じだけ癖があります。これに加えどんな紙にどんなことを書いていくか、万年筆にどんな仕事をさせるのか、その無意識の部分と意識の部分をカルテにデータ化し、ペンポイントを研ぎだして調整し、長年使って手になじんだ書き味を作り出す、また表現力をもったペン先を作りだすことをはじめました。世界初、スーツや靴のように万年筆にもカスタムメイドが誕生したのです。

2)伝統の四山ねじ切り

 ほとんどの万年筆が、キャップと胴軸のジョイント方法はねじ式です。キャップ勘合式だと開けた時にインクが噴き出したり、閉めているのにペン先が乾きやすかったり、長年の使用で閉まり具合が緩くなったりするからです。そこで通常のネジですと一山進めるのに一回転させますから何回転も必要になります。かといってねじを少なくすると長年の使用でネジが切れたり、ねじバカになったりします。一日に何度も開け閉めする必要のある部位ですから、なんとか、耐久性を考えたねじの量でありながら、回転数を少なくしたいとした技術が、四山ねじ切りです。なんと一回転で四山進みます。いにしえの万年筆作り(ろくろ仕事)から伝わる技ですが、今では珍しいものとなりました。万年筆職人の免許皆伝とも言われています。

3)ねじや機構、首軸には摩耗に強いエボナイト

 エボナイトやセルロイド以外にもろくろの仕事に向いていて、なおかつ手にフィットする、握っていて気持ちの良い素材はないかとまず採用したのが、黒水牛や本鼈甲でした。その時に内部機構やねじ部分には摩耗に強く永年使って安心なエボナイトを組み込ませることが重要なテーマでした。これ以降、銘木などにもすべて内部機構にはエボナイトを使っています。いかに手間がかかっても、より本物を作りたいのです。

4)永年の愛着がわく銘木

 永年の使用で、耐久性がある上に、味が出ていく、エイジングが楽しめるものはと考えた時、銘木という答えが出ました。1991年ヴァイオレットウッド、2000年ココボロウッド、2009年老山白檀拭き漆、花櫚の瘤拭き漆、アフリカ黒檀、本紫檀を採用。世界中に素敵な木材がたくさんありますが、万年筆として製作する場合に向き不向きがあります。加工性が良く、手触りがよく、狂いが少なく、木目が美しく、エイジングを楽しめ希少性の高いもの。欲を言えばきりがありませんが、うっかり手についたインクが軸にしみこみ、台無しになるようではいけません。当社ではなるべく対水比重が高く水のしみこみにくい素材を使用し、対水比重の低いものには拭き漆を施します。あまりに対水比重の低いものは、汚れやすく、狂いやすいことから使用しない方針です。また、近年圧縮材を見かけますが、長年にわたり「もどり」などが見受けられるケースがあることから遠慮しております。ご参考までに下記木材の比重表をご覧ください。全ての銘木の資源が少なくなりものによってはワシントン条約で規制され入手が難しくなっています。また、比重が高ければいいというものでもありません。当社では今手に入るものの中からベストな選択をして仕事をしていきたいと考えています。

比重表

5)鍛金金具

鍛金金具

 より一生ものにと考えた時、クリップやリングの金具類がメッキ処理ではなく、ソリッドゴールドのものも作りたいと考えました。それも万年筆本体同様、マシンメイドではなくハンドメイドで。ペン先同様14Kソリッドイエローゴールドで。金具はすべて手作業によるものです。クリップ一つ作るのに約70工程、3日間ほどかかります。糸鋸で引き、研ぎあげ、曲げ、ロウ付けし、ハンマーで打ち、磨き上げます。

6)70年ぶりに進化復活する道具たち、ろくろ、くしがま、うま、本打鋼平バイト

 万年筆用のろくろ(いにしえの万年筆作りに欠かせない機械。動力で軸の削り出しや穴あけ、足踏みで四山、二山、一山ねじ切りをできるもの)、くしがま(ろくろでねじ切りをするときに必要なねじ切り専用の刃物)、うま(ろくろで刃物をあてがうのに土台となるもの)、本打鋼平バイト(ろくろで軸を削り出す時の刃物)、これら全ては、1930年代に使っていたものを修理しながら使っていましたので限界が来ていました。また、刃物はほとんど残っていませんでした。万年筆職人がいない世の中に、それ用の機械や道具を作る職人さんがいるわけもございませんので当然どこにも売っていません。絶望している暇はなく、どうにか新しく作り変える必要がありました。いにしえのろくろを分解して図面におこし、問題のある点には現代の技術を豊富に取り入れ、CADをひき製作しました。刃物は全て鍛冶職人さんに相談しながらいにしえの刃物を復活製作していただきました。実に7年半がかりでした。今後安心して仕事が進められるようになったうえにすばらしい職人さん、技術者の方の技と知恵のおかげで、加工精度も飛躍的に上がりました。

70年ぶりに進化復活する道具たち

7)使い手に合わせた軸の長さ、重さのトータルバランスを考慮したビスポーク万年筆

 折角の一点ものの生産ですから、ペンポイントの研ぎ調整のみならず、使い手に合わせた軸の長さ、重さ、重りの位置によるトータルバランスを考慮したフルカスタム(ビスポーク)としました。

8)3連、4連柄合わせ

3連、4連柄合わせ

 銘木等で万年筆を製作する場合、銘木をキャップ天冠とキャップ主要部分に切断して、それぞれエボナイトを継いでから雌ネジと雄ねじを切り、間にクリップを挟んでねじ込みます。ねじを締めた時、切断部の柄を合わせることも職人技のひとつです。以前はキャップ部と胴軸部は別々の木材(それぞれ90ミリの長さ)を使っていましたのでキャップと天冠しか柄合わせができませんでしたが、現在は長さ200ミリ以上外径20ミリ角の銘木から一本の万年筆を作るようにして、キャップと天冠に加え胴軸、ボディーリングを挟み込むタイプの万年筆には胴軸エンドもすべて柄合わせいたします。これには実に複雑で高度な技と、大きな素材の確保を必要とします。キャップと胴軸をつなぐネジは四山ですので、止まり所は4か所ありますが、どこで柄を合わすのかは儀式のひとつとして楽しんでいただけます。特にココボロウッドなど木目の目立つ素材は、こういった視覚的な楽しみもあります。

 

感覚を研ぎ澄ます

 わからないことを聞いてもいい返事は無い。そんな中、一日中聞こえてくる音がある。刃物を研ぐ音、ろくろが回り刃物を材にあて削り出す音、ねじを切る音、足踏みのリズム、ここからすべてを学んだ。

刃物やろくろに予備はない。借りるわけにもいかない。夜中に刃物・ろくろを徹底的に研究し、ろくろを分解・組立を何度も繰り返し、図面に起こす。刃物に使われている鋼の性質を研究し、数人の鍛冶職人に何度も試作を依頼。7年がかりで大正、昭和初期の道具たちを進化復刻させた。

1日に14時間以上ろくろを回す。集中力を高めるために食事は抜く。元日以外は休まない。自分に鞭を打つ3年間があった。

和楽器職人、仏師、木地師、鍛金職人、宮大工、木工職人、漆職人、刀鍛冶、アーティスト。貴重な人達との結び付きに感謝しながら技を盗んだ。

 目でみて、匂って、指先で感じ、音を思い出す。「言葉で言い表わせられない何か」をいかに感じ取るかということが修行でした。勇気、忍耐、根性、努力、そして感謝の気持ちを忘れることはありません。「言葉で言い表わせられない何か」といえば万年筆で書くおたよりもそうです。上手な文字でなくとも、上手な文章でなくとも気持ちが伝わるのは、それ以上に感じさせる何かが宿るためだと考えています。

文明の発達と同時に感覚が鈍くなっていくことは残念でなりません。この「言葉で言い表わせられない何か」が真のこころの豊かさに繋がると信じ歩んでまいります。

                  山本 竜 九拝

職人プロフィール

1974年5月 生まれる。
1996年7月 万年筆博士入社。 ペン先調整からはじめる。
2002年8月 ろくろの修業もはじめる。70年前の道具たち、ろくろ、くしがま、本打平バイトの開発をはじめる
2008年2月 代表取締役就任。
2009年 70年ぶりに進化復活する道具たち、ろくろ、くしがま、うま、本打平バイト5種7年がかりで完成させる。
受注納品開始。軸の長さ、重さのトータルバランスを考慮したビスポークシステムの開発。
工程数が増え続け、月産12数本ペースを限界とする。
軸材に老山白檀拭き漆(30本限定完売)、花櫚の瘤拭き漆、アフリカ黒檀、本紫檀を開発。
2011年 年に2回のマントゥーマン診断受注イベントをはじめる(東京は東銀座)。
2012年 万年筆のデザインに黄金比(DESK)、白銀比(NME)を取り入れる。
2013年 創業80周年記念モデルとして15号バイカラーペン先100本限定で開発完売。それに伴い鍛金金具に
シルバー950燻仕上げと14Kホワイトゴールドを開発完売。
2014年 年間受注納品の50%以上が海外からのものとなる。
2016年 オランダはアムステルダムで診断受注イベントを行う。